近いようで遠い

2026/07/13

荒木建策(放送作家/脚本家)

私がよく出向く界隈に
美味しい馬刺しを提供する馬肉専門店がある。
国産馬肉の使用こだわっていて、
馬肉を使った煮込みやおつまみに定評あり。
馬刺しに関しては希少部位なんかも豊富で、
ありとあらゆる馬肉料理を
種類豊富なアルコールと共に味わえる
酒飲みにはもってこいの居酒屋である。

馬肉は「高タンパク、低カロリー、低脂質」で
ヘルシーだし、
(カロリーは100g約102kcalで鶏のささみと同等)
ダイエット中の酒飲みにも重宝されている(はず)。

ただ、ひとつだけ腑に落ちないのが、
その店名なのである。

「ジョッキー」

馬だからジョッキー。
そういう連想ゲーム的な遊びで付けられた
店名だとは理解できるのだが、
競馬関係者を友人に多く持つ私からすれば、
かなり違和感がある。

例えば、
鹿肉や猪肉、熊肉などの
ジビエを提供する店があったとして、
それに「またぎ」と名付けるのには
何の違和感もない。
彼らは、狩猟によって
それらの動物の肉を獲るのが生業だからだ。
もちろん食することも日常。

それに引き換え、
ジョッキーはどうだろう。
ジョッキーは馬肉から
最も遠い存在ではないかと私は思うのだ。
なぜなら、
馬肉食をタブーとする騎手は
一般人よりもはるかに多いからである。

彼らは日頃から馬と深く接し、
パートナーとして愛情を注いでいて、
例えばミルコ・デムーロ騎手は
「馬の肉を食べるくらいなら死んだほうがマシ」
とまで言うほど。
多くの競馬関係者にとって、
馬肉食は精神的にタブーとされているのである。

「ジョッキー」…

もしかしたら、
名付けた人間はその禁忌に触れているのが
面白いと考えたのかも知れないが、
待ち合わせで店の前に立っていた男性が
「この店大丈夫?名前とか」
と不安顔で言っていたことも踏まえると、
普通の感覚だとやはり危険なネーミング。

私だったら何と名付けるだろう?

「調教師」だったらまだ…とか考えてみたが、
別のジャンルの店だと思われるし、
代案はないからこれ以上は言わないでおこう。

完全なる余談だが、
昔、仕事をしたアナウンサーに
美馬さんという方がいて、
彼女は馬肉は一切口にしないと言っていたなぁ。