心の借金

2020/03/16

二度と作るまいと心に決め、
指差し確認してから横断歩道を渡るように注意深く生きてきたのに、やらかしてしまった。
またしても心に借金を作ってしまった。その額ざっと8億円。
8億と言えば、仏の荒木として知られるこの私が、
段取りの悪いコンビニの店員に思わず悪態をついてしまいそうな額であり、
向こう3ヶ月の予定を考えれば、もはや返せるアテもない。
これまで、私が携わる仕事で取り引きされる心のお金は、バランスが取れているものとばかり思っていた。
締め切りに関してグチグチ言われたり、読みたいマンガを我慢したりと借金を負いつつ書き上げた原稿から、
視聴者の方が幾ばくかを受け取る。
その際にこぼれる笑顔から、今度は私がお金を頂戴して執筆時の借金がチャラになるという、
健全な図式が成り立っているとばかり思っていたのに、
先日我が担当番組のアンケートをチラリと見て愕然とした。
面白いものに「⚪︎」面白くないものには「×」をつけるシステム。
面と向かって人を誉めるのは簡単でも、否定することはおいそれとは出来ないように、
バツをつけるには力が要る。強い気持ちが要る。
そのカジュアルにはつけることの出来ないバツが私の企画に二つもついていたのである。
バツ&テリーのバツではない。
あまりのショックにギャグも今ひとつ精彩を欠くわけである。
バツたか子。ロースバツ弁当。やっぱり冴えない。バツ新太郎。今月の給料は2000バーツ。
…これ以上、無理をすると身体に障るし、今夜はもう寝るとします。


荒木建策