アイデンティティ

2017/06/12

私の身近に「生まれてこの方、満腹になったことがない」と豪語する人間が二人いる。

よくランチを共にするMは、痩せていたことがないというデブ界のエリート。
食べ物をホイホイと口に放り込む様は見ていて気持ちが良い。

つい先日、とあるパスタ屋で「超大盛」というメニューを見つけた。
Mがそれを注文したので、私も超大盛りセットにして、
サラダと「超大盛り-普通盛り=そこそこ大盛」の分のパスタを取り分け、黙って渡した。
二種類の味が楽しめるとあらば、いつにも増していい笑顔を見せてくれるとばかり思っていたのに、
何故か彼の表情がすぐれない。
そして、フォークを持つ手がピタリと止まり、泣き出しそうな顔でこう言った。
「デブにだって限界はあるんだ!」。

確立されたアイデンティティを自ら否定することほど屈辱的なことはない。
配慮に欠ける振る舞いだったと、とても反省させられた出来事であった。


大食い番組大好き作家
荒木建策