上野の天ぷら

2017/11/06

上野に行くと必ず立ち寄る天ぷら屋がある。
パンツの中に千円札を一枚隠し持ってさえいれば、
例えカツアゲに遭ったとしても腹一杯食える安価な店だが、これが旨い。
似たような値段の天ぷらチェーンなんぞ食えなくなるほど旨いから、
上野に立ち寄った際には是非に、と、ある女性に勧めれば、
その人は興味を持つどころか「じゃ、食べなぁい」という、にべもない返事だった。
バカなのかこいつは…と言葉には出さないまでも心の内で憤っていると、
手元のスマホをいじりながら彼女は言った。
「だって、それ食べたらチェーンの天ぷらが食べられなくなるんでしょ?そんなの嫌だから」。
目から鱗が剥がれ落ちた。100枚単位で。
なるほど、高みを知ることは幸福であると同時に不幸でもあるのかも知れない。


荒木建策