怖い話のような話

2018/01/08

先日、寒々とした空気が漂う喫茶店で、急ぎ原稿を仕上げようと、
パソコンを広げた私の耳に飛び込んできたのは、おそらくこの世で最もくだらないお願いだった。

「ホントにごめん!お願い、許して!ダメ?そんなこと言わないで。
 アタシ知らなかったの、ヨシトがすき家好きだって!次は絶対すき家買ってくる。
 だから許して!ねえ、一生のお願いだから、松屋で許して!!」。

事の発端はよりによって牛丼かよ、すき家を買ってこなかったアタシを許してってどんなお願いだよ、
と、はじめは笑いを堪えて聞いていた。
しかし、周囲に気を配ることなく、恋人を裏切るような行為に及んでしまったかの如く、
電話で必死に謝るその女子を見ていたら、段々と怖くなってきた。
そうしている内に、電話を握りしめる女子の目元からは、なんと、涙がこぼれ始め、怖さはピーク。
さらに、見ていられなくなって、窓の外に目をやると、そこにはすき家があった。
…今年一番の鳥肌が、全身に立った。


荒木建策