守りたいもの

2018/01/29

テイクアウトの客が見事なまでのヅラだった。
しかし、私は大人だ。
ヅラと気づいて凝視する年頃は過ぎたし、
あれは地毛だ、アバンギャルドな髪型なのだと自らに言い聞かせながら、牛丼を掻き込んでいた。
しばらくすると、ヅラ紳士が注文した牛丼8人前が到着。
紳士がカバンを脇にはさみ、2つに分けられた袋を持ち上げると、
その拍子にヅラがあってはならない位置へズルリ。
黒々としたヅラがやけに白い頭部を斜めに覆うその様は、
もはやアバンギャルドの一言では済まされない代物である。
両手はふさがった状態だ。
そのままひとまず店を出るのか、それともすぐさま牛丼を下ろして直すのか…。
こちらがドキドキする間もなく、
なんと、紳士は牛丼から手を離してズレを修正。
床には米やら肉やら生卵やらが散乱した。
こうまでして守りたいものが自分にはあるのだろうか、と考えさせられた出来事であった。


荒木建策