右胸の心臓

2018/02/19

その昔、親しかった女性が、突然、胸から下腹部にかけての一帯に目にも鮮やかな彫り物を入れ、
決して小さくはない精神的な変化を知るという強烈な体験をして以来、タトゥに対しては敏感なのである。
首筋に入った毒々しい花を見るとビクッとする。
肩口のおどろおどろしい柄を見てもビクッとする。
背中の神々しい観音様には、別の意味でビクッとするわけだが、
風呂屋で見掛けた外国人のタトゥには、何か別の感情が湧いてきた。
右胸に漢字で「心臓」。
​​​​​​​右胸に、である。
ダミーか?ダミーなのか?
殺し屋に刺されそうになった時にミスリードしたい的なことなのか?
それとも、100万人に一人いるという内蔵逆位で、
何かあった時に心臓マッサージするならこちらですよ、的なことなのか。
どちらにせよ、そのタトゥには、攻撃性よりも、
どうにかして自分を守ろうとする防衛本能が垣間見えた。


荒木建策