節分をスルーするワケ

2018/02/12

15年前のことだ。
私が通っていた教習所には鬼がいた。
口髭をたくわえ、薄いサングラスをかけた鬼。そう、鬼教官である。
初遭遇は、確か縦列駐車を習う時だった。
鬼の機嫌を損ねぬよう「よろしくお願いしゃす」と頭を下げてから車に乗り込むと、早速噛みつかれた。
「半ドアや」。
それだけで、この人ベジタリアンじゃない、確実に肉食だとわかる声に一発でビビった私は、
これ以上鬼の神経を逆撫でせぬようにと慎重にドアを閉めなおしたところ、
「失敗」の2文字が混じる軽い音がした。
「半ドアや!」。マズい。もう失敗は許されない。
次の半ドアは、半分閉まったドアではなく、あの世へのドアになることを察した私が、
ありったけの力で再び閉めなおすと、鬼は青筋を立てながら言った。
「うるさいんじゃ!!」
それ以来、勢いよく閉まるドアと節分の鬼を見ると、あの悪夢が蘇るのである。


荒木建策