危険を予見

2018/06/04

この時期になると、週に3日は履いている麻のパンツは、
丈が短く、生地は柔らかく、そして何よりポケットが浅い。
故に、落としたら命取りになるものをポケットには入れぬよう、細心の注意を払っていたのに、
売店のおばちゃんがお釣りの千円札を「いーち、にーい、さーん…」と呑気に数えている最中に電車が来たため、
急いで受け取ったお釣りをついついポケットに突っ込んでしまった。
「あらっ!!」
数時間後、ポケットに入っていたのは小銭だけ。
9枚の千円札は、どこかに消えていた。
どうせなら全部なくなった方が諦めはつくのに、小銭だけ残っているというのが余計に気を滅入らせる。
きっと落としたのは電車の中。
ショックどころか、もはやダルくて仕方がない私とともに、車内をくまなく探してくれる方はいないだろうか。
それとも、9千円の行方を乗客一人一人に尋ねてくれる奇特な方はいないだろうか。
それも無理なら、誰かこの麻のパンツを9千円で買い取ってはくれないだろうか。


荒木建策