面構え

2019/03/25

胸元にポツッとできた蕁麻疹のようなものが、ふと気付けばポツポツぐらいに広がっていたため、
すわ一大事と近所の病院に駆け込んだ。
浅学非才の身である私の唯一の武器である健康を失ったらさあ大変。
急いでシャツを脱ぎ捨て患部を見せた後、次のひと言を固唾を呑んで待っていると、
問診票に視線を落としたまま医者は言った。
「最近、行った?」
はて、どこのことだろう。
頭の中を隅々まで探してみたが、どうしても主語が見当たらずに視線を泳がす私を見て、医者はニヤリと笑った。
「最近、風俗行った?」
ここが居酒屋ならば乗っかるところだが、あいにくここは病院だ。
努めて冷静に否定したが、この人まるで聞いてない。
「またぁ、どこかで遊んできたんでしょ?」
まるで私が嘘をついているかのような口ぶりである。
冗談じゃない、本当に行ってない、先生勘弁してくださいよと否定しても、
最後まで性病を疑われたその理由は、
「浮ついているように見えた」から。
それにしても、「風俗、滅茶苦茶好きそうな面構え」とは名誉棄損ものじゃないのか。
笑ったけど。


荒木建策