1,2,3…

2019/04/29

恐怖を感じたのは高さよりも体勢だった。

「手を頭の後ろで組み、頭から落ちてください」
それは「死」というものに最も近い体勢であり、いやいやと一旦は後ずさりした私の背中を押したのは、
責任感でも冒険心でもなく、ガイド役である女性のリアクションだった。

先日、私は、人生で初めてバンジージャンプを体験した。
「やっぱり頭から落ちないとダメですかね…」
ダメと言われるのは承知の上、ただただ飛ぶまでの時間を稼ぎたかっただけのひと言に、
「はい、ダメですよー。危ないですからねー」
その手の泣き言は聞き飽きましたと言わんばかりの、
まるで心のこもっていないカッサカサに乾いた返答。
私は、この場には1秒たりともいたくないと、
「ハイ、123バンジー」やはり乾いた掛け声に合わせ、勢いよく飛び降りた。

いつだったか、スポーツ選手が「頑張れという声援は嫌い。何故なら既に頑張ってるから」
などと申しておりましたが、同じ「頑張れ」でも熱のこもっていない乾いた「頑張れ」ならどうなのか。
そこそこ効果はありそうだが、私はもう結構。
バンジージャンプもカッサカサの声援も勘弁して。
そう願って止まぬ今日この頃なのである。


荒木建策