秘密道具の話

2020/08/24

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

もしもドラえもんがうちにいたら、机の引き出しに頭から突っ込み、
急いで2時間前に遡ってシャワーから出て5分だけ休もうと、ベッドに横たわった私を棍棒か何かで突っつくのにと、
いつの間にやらファンタジーの世界にそろりそろりと足を踏み入れているわけだが、乗りかかった船だ。
現実から離れ、もう少し空想を続けると、
常日頃、私が欲しているのはタイムマシンではなく四次元ポケットなのである。
駅前の焼き鳥屋には鴨脂なるものがあって、これがまさに絶品。
仏の荒木の他に脂の荒木の異名をも持つ私にとっては、ひと串でご飯3杯はいける究極のメニューであるのだが、
残念なことにその焼き鳥屋は米の類を一切出しておらず、脂と米のマリアージュを味わうことはできない。
そこで四次元ポケットである。
家で炊いたホカホカのご飯をポケットに忍ばせておき、焼き鳥屋で鴨脂をかじるたび、ご飯をそっと取り出し口に含む。
ああ、想像しただけでとろけそうである。
トロトロに溶けてしまいそうだが、脳ミソまで溶けているわけじゃない。
四次元ポケットにはご飯だけでなく、優しさもしまっておくつもりである。
昨日、ちょっとした打ち合わせの最中に立ったままでいた。
椅子が足りなかったため立ったまま話していると、その場にいた1人が立ち上がって言った。
「荒木さん、どうぞ座ってください」ああ、なんて優しいのだろう。
締め切りを落としまくる作家にそんな優しい言葉をかけてくれるなんてと思わず目頭が熱くなったわけだが、
その時、私は腰が痛かった。一旦座ってしまうと立つ際に激痛が走る。
正直、立っていたかったわけで、声をかけてくれた彼の優しさは不要だったのである。
そうした宙に浮いた優しさを四次元ポケットにしまっておき、
ひどく疲れた身体で満員電車に乗り込む時にでも使えればいいのにと、ここまで書いて更新5分前。
すみません、やはりタイムマシンをお願いします。