優しいあの子

2020/08/17

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

「何とかなるさ」が信条の私ではあるが、前回の件に関して不安を抱えていなかったと言えば嘘になる。
何しろ6点だ。
泥酔したまま試験を受けたとか、誤って1本しかない鉛筆を食べてしまったとか、
余程の事情がない限りなかなかお目にかかれぬ、できることなら墓場まで持って行きたいテストの結果を、
まるで白い鳩を大空へと放つかのように、万人の目に触れる場で書き綴ってしまったからである。
10点満点の6点ではないかとのご意見も頂戴したが、
それならば「6点でした…」と尻すぼみにならず、むしろ堂々としているだろう。
「6点でした!!」ぐらいの勢いがあるはずで、
例の女子が受けた試験はまず間違いなく100点満点。
にもかかわらず6点だったと、またも不用意に6点を連呼しているが、
とにもかくにも前回、6点の件を書いてしまい、
乙女心に傷をつけちゃいないかとちょっとした不安を抱えていただけに、更新から2日後、
女子から届いたメールを開く時には柄にもなく緊張した。
「急に熱くなりましたね~。熱中症とかかかっていませんか?荒木さんは数字に強そうですね」
傷付くどころか至って普通。
これがTwitterでなく手紙なら、キティちゃんのシールで封をしているんじゃないかといったほんわかしたテンションに、
ホッと胸を撫で下ろすと同時に、とある疑問が湧き上がる。
前回のアレに目を通していないのでは?
6点の件には一切触れず、気温の話から始めるとはもしかして、自分がネタにされたことに気付いていないのか。
いや、気付いていながらも、私に気を遣わせまいと、あえてそのことに触れていない可能性もある。
脈略がないようにも見える「荒木さんは数字に強そう」の一文の前には、
本来なら「私は6点だったけど」と入るのではないか。
彼女の溢れんばかりの優しさが「えっ!?」と聞き返したくなる文面にしているのではないか。
果たして、答えはどちらなのだろう。
彼女はすっとぼけているのか、それとも春の木漏れ日のような優しさを持っているのか…。
どちらにしても悪い男からの誘いを断れるのか心配で心配でストロークが定まらず、
またしても締め切りギリギリの入稿である。