6点

2020/08/10

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

ひとつとしてミスが思い当たらぬ100点の台本なんて、この方一度も作ったことがない。
言葉選びとか、間とか、いざ本番となると何かしら減点対象となるポイントがあるわけで、
アベレージはおそらく40点台。
真っ直ぐ転がせぬ初心者のボーリングと同程度であり、
ひどい時になると20点台に落ち込むわけだが、それでも20点台である。
自己採点で10点を下回ったことは、さすがに経験がない故にどうしていいかわからず、
思案に暮れているのである。
Twitterに何かの偶然でたまたま私を知ったと語る女子がいる。
文面から察するに、おそらく10代だろうか。
私とは親子ほどに歳が離れているその女子はDMでちょこちょこと近況報告を送ってくれるのだが、
7月だったか、じきにテストがあるので頑張りますと、そんなメッセージが届いたのである。
口にしなくなって久しいテストという言葉の響きが、私を遠く離れた場所にいるお父さんにさせ、
メールを読んだその夜、山に向かって叫んだ。「頑張れよー」と。
我が家から、山なんぞ見えやしない。
空想の中に広がるアルプスに叫んでからおよそ3週間後、女子から結果が送られてきた。
「数学のテスト6点でした。荒木さんも鈴木おさむさんに負けないように頑張ってください」
言いたいことは山ほどある。
何故唐突におさむさんなのか。
そもそもどうして私が、不世出の偉人と戦わねばならぬのか。
オイ娘、ちょっと待て。冷蔵庫にある麦茶でも飲んで少し落ち着けといったところだが、
それより何より最も気になるのは数学の点数。
6点ってなんだ、6点って。
自慢できるのは仕事のスピードだけである私だって、さすがに6点は記憶にないのである。
ここはひとつ、遠く離れた父親として、オレよりむしろお前が頑張れときつく叱った方がいいのだろうか。
それとも、沈黙を守り自主性を促した方がいいのだろうか。
お父さん、娘のことが心配で心配で筆が手につかず、今回締め切りギリギリの入稿である。