隣人は軍人

2020/08/31

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

3月の末からずっと空いていた事務所の隣の部屋に、珍しく体育会系の会社が入ってきた。
どちらかと言えば文化系。
朝は気怠そうな挨拶から始まる連中ばかりだったのに、隣に入った会社の皆さんは、
朝だろうが夜だろうが住人を見つけるなり立ち止まり「お疲れ様です!」と、
まるで上官に報告を入れる軍人のような挨拶をしてくる。
しかも、腰から上半身を90度曲げたおじぎ付き。
「ハイ」とか「ホイ」だとか、だらしない挨拶で済ませてきた先住民ならぬ先住人は思わず恐縮してしまう。
「あれじゃ、腰を悪くしちゃいますよ」。
会う人会う人に深々と腰を折るのを見た誰だかが、ポツリつぶやいていたが、
夜の営みが原因ならただのバカでも、おじぎが理由で発症した腰痛は勲章ではないか。
つっぱることが男のたったひとつの勲章だと思われていたが、おじぎ腰痛も立派な勲章ではないのか。
したがって、隣の会社の皆さんは、胸を張って腰痛に悩まされて頂きたい…と、
ここまで書いて、家を出るまであと40分。
まだ少しだけ時間があるのでひとつ付け加えさせて頂くならば、
「腰痛は癖になる」などと言われておりますが、
あれは腰痛によって迷惑を掛けた相手に深々とおじぎすることが理由で再発するのではないかと、
そんなことを思い付いたところで出発の時間を迎えてしまいました。
それでは、知り合いの通夜に行ってまいります。

荒木