2020/10/19

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

小雨がそぼ降る外の景色が霞がかって見えるのは、朝もやのせいではなく、
徹夜明けで目がショボショボしているからでもなく、窓が思い切り汚れているからである。
最後に掃除したのは、コロナで世間がえらいことになる前のこと。
それまでは除菌シートで隈なく磨き上げていた私だが、しばらくの間、どこへ行っても除菌シートは品切れ。
雑巾でやればいいとお思いでしょうが、
そう、私はグリーンピースと黒板をひっかく音と雑巾が、大の苦手なのである。
その昔、夕食時にはいつも意地の悪い継母に、家族と離れ、一人ミカン箱の上で食事させられた。
家族が座るテーブルには淡いクリームのテーブルクロスがかかっていたのに対し、ミカン箱にはボロ雑巾。
ドブの臭いがする雑巾が敷かれ、その上にご飯とお新香、具のない味噌汁が置かれた。
ゴワゴワした雑巾に触れるたび、あの忌まわしい記憶がはっきりと甦るのだ…と、
ここでつかなくてもいい嘘をついても仕方がない。
実際のところは、雑巾を濡らして拭いて洗ってが面倒なだけ。
面倒くさい、面倒くさいでかれこれ半年が経過しているわけである。
そういえば、料理も面倒になり、体重が6キロほど減った。
コロナは意外なところにも、見えないところにも、人々に悪影響を及ぼしているのだろう。