塚本

2020/10/12

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

いつか塚本にヤラレるんじゃないかとビクビクしていたのです。
塚本とはキャシィでも、高史でもなく後輩作家の塚本。

本当に大人しく、飲んでも騒がないし声を荒げることもないし下手すれば気配を消すし。
だからつい大人しいのをいいことに、何人か帰って塚本と2人になった後、
強引に連れてきてしまったのです、私の住む街に。
「アウェイだと帰るの面倒だから、ほらこっちゃ来い」と。
彼の家は遠くなるけど知るかそんなのと、
タクシーを拾ったら一瞬引きつったように見えたのです、塚本の顔が。
塚本の心には、ダムがありますね。怒りを溜めておくでっかいダムが。
だから少々のことじゃ動じない。少々のことじゃ怒らない。

しかし、3時半という中途半端な時間に、「じゃ、そろそろ帰るわ」といった瞬間に、
ダムはついに決壊、そんな気配を感じたのです。
だって行儀のいい塚本が、瓶ビールをラッパ飲みしていたもの。

こりゃ油断ならんぞと、気を抜いちゃならんぞと、あの夜以来、警戒していたのです。
竹槍持って攻めてきそうだから。
目立たぬよう、気付かれぬよう、
頭低くして、仕事とか昼寝とか腕立てとか買い物とかしていたのです。

昨日はアレを買いました。

近所の古着屋で、アディダスのトラックトップ。
つまりジャージですね。
ピッタリだったんですよ。
まるであつらえたように。

安かったし、素敵な色だし、こりゃいい買い物したよと、家で改めて広げたら、
タグのところにマジックで「塚本」と書いてありました。

荒木