忘却力

2020/10/05

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

事務所が入るビルの住人に、働きながら大学に通って法律を学んでいるという私と同年代の男性がいる。
法科とは大雑把に言えば暗記の学問、法律、判例、事例などを片っ端から覚えていくそうだが、
先日、彼はその片っ端から覚えていったことを片っ端から忘れてしまうとぼやいていた。
「この歳になると、ねぇ…」
彼だけではない。
四十路を目前に控えた友人は、ディズニーに行くたびに電話をかけてきて、
「鼻の赤い方がチップだっけ?」と聞いてくるし、
別の友人は、飲むとなると、特に値の張る店へ行くとなると90パーセント以上の確率で財布を忘れてくる。
加齢による記憶力の減退と言ってしまえばそれまでだ。
しかし、私はこれを衰えではなく成長、忘却力の成長と考えたいのである。
要するに、更新日がすっかり抜け落ち、締め切り直前になってから、
空気椅子の体勢でこうしてパソコンに向かっているのは成長の証しではないかといったわけですが、
皆さん見えていますか?
自らへの罰として、この長い言い訳を空気椅子で書いている私の姿が見えていますか?
ふへへ…すみません。