セーブポイント

2021/02/01

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

腹痛系男子である私は、街中に複数のセーブポイントを持っている。
漏らしてしまうことで人の尊厳を失うとするならば、
自由に借りられるトイレは、まさに人生のセーブポイントなのである。
事を終えると何事もなかったようにキリッとした顔をして再び人生の旅に出るわけだ。
しかし、先日、とあるセーブポイントに駆け込み、セーブを終えて流した瞬間、
セーブ前には目に入らなかった張り紙に気付いた。
「水が流れにくくなっています。一度で流れなかった場合には、スタッフをお呼びください。溢れます」。
ちょっと待て。
いくらなんでもその問題は解決しておいてくれないだろうか。
男子が個室に入るケースは、大体が大きいほうである。
女性に見せる趣味はないし、レジの男性店員に声をかけるのも辛い。
ただ、流さないまま放置するのは他の客に迷惑だし、何も解決はしていない。
それ以上にバツが悪いのは、駅前にあるスーパーに入る一番の目的がトイレである。
買い物をした回数の約20倍はトイレのために行っているし、
トイレの近くのレジに立つおばちゃんにはいつも会釈される。
こっちが顔を覚えているということは、客商売の向こうは確実に覚えていて、
トイレくんのあだ名をもらっている可能性だってある。
もし、自分が常連客だったら、ごめん、ごめん、トイレ詰まっちゃったと、笑い話にできるけれど、
トイレを使うだけの男がトイレを壊して帰っていくなんて、厳しい国だったら死刑もある。
今度から立ち寄った際には、トイレ使用料として千円は買い物するから、
今この瞬間、そしてこれまでのことは、
どうか水に流してくださいと祈って洗浄ボタン押した。