リトル荒木

2021/01/25

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

今年聞いた中で、最もなるほどと思った話がある。
家でひとり酒を飲むという友人に、寂しくはないのかと訊ねたところ、
自分と会話するから寂しくないとの答えが返ってきた。
いやいや、それこそ寂しくないか、そう言い返すと、自分のことをわかっているのは自分で、
一番気が合うから楽しいとのカウンターパンチが飛んできた。
なるほど、その発想はなかった。
詳しく聞くと、自分のやっていることはこれでいいのか、そういった話をするらしい。
サッカーの本田圭佑選手も、困難な選択があったときはリトル本田に聞くと言っていた。
もうひとりの自分と話すことは世界基準なのだ。
これまで寂しかった居酒屋でのひとり飲み。
カウンターに座り、江戸前の旬やゴルゴ13を読んで寂しさを紛らわしていた自分とはおさらばだ。
まずは、もうひとりの荒木がどんなやつか探らなければならない。
いや、まったく自分と同じ性格なのはわかっている。
わかっているからこそ、一緒に落ち込んだり、だらしない方向に進むのは怖いのだ。
どちらかといえば、重い話はせずに、長年一緒にいる幼なじみのように、
バカ話を聞いてくれる、そんな関係性を求めた。
よし、ここはひとつ、すべらない話を聞いてもらおう。
ジャッジをしてくれる審判みたいなものだが、そこはもうひとりの荒木くんだ。
中東の笛が吹かれ、ゲラゲラ笑ってくれるに違いない。
意識を切り離して、荒木が荒木に話しかける。
話した内容は、徹夜で桃鉄したら次の朝のリモート会議の途中で寝落ちして、
ギャラを半分にされたことだったが、マジでつまらなかった。
もうひとりの荒木が眠そうにしていた。
この話を他の人にもしてきたかと思うと寒気がした。
冷静になって考えるとわかることがある。
勢いが勝って冷静なジャッジができないときこそ、もうひとりの自分を呼べばいい。
きっと、きっと正しい道へと導いてくれる。
実は、このあとに汚名返上とばかりに話した、H&Mに朝5時から並んだ話があるんだけど、
それはリトル荒木も大爆笑。
その話はまたどこかで。