2021/01/18

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

先日、東京でも評判の鰻を食べる機会があった。
注文を聞いてからさばいて、そこから焼くから30分待たされるが味はたしか。
今まで食べた鰻の中でも一番美味いと断言できるものだったが、
家に帰ってもう一度、鰻の味を思い出したときに気づいてしまった。
うな重とはご飯の上に鰻が乗っかったもので、
ご飯をかきこむように食べるのがマナーとされているが、その勢いを助けているのは鰻ではない。
創業当時より受け継いだタレである。
素材3割タレ7割ではないかと、鰻に人生を捧げた頑固親父に鉄串で刺されそうな結論に至ったのだ。
刺身を例に挙げると、単体で食べてもおいしいものなどほとんどなく、
基本的に醤油の助けが必要である。
焼肉だってそうだ。
店名は完全に伏せるが、一皿500円程度の牛角カルビだって、タレをつければ美味い。
日本が誇る一番美味しい食べ物はタレである。
大人になり、周りの雰囲気に流されて、わかったように振舞っていた。
高価なものを食べて気取っていた。
舌が肥えたという言葉があるが、実は劣化していた。
自分は大人になった今もオムライスやハンバーグが好物。
子どものほうが食に対する変な価値観がなく、味に素直なのではないだろうか。
思い出して欲しい。
自分が子どもの頃、もしくは周りにいる子どもたちが、焼肉や刺身を食べるとき、
タレや醤油をバカみたいにぶっかけて、それはつけすぎだよと大人に注意されていた光景を。
そうやって食べるのが一番美味しいことを子どもは知っているのだ。
ああ、そうだった。
変なプライドは捨て、素直になろう。
俺は鰻はそんなに好きじゃない。刺身もそんなに好きじゃない。
タレが、醤油が好きなんだ。…ひとつ素直になれた。