浦辺

2021/07/19

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

私が通っていた小学校は少し特殊で
仏教徒が住む地区とキリスト教徒が住む地区の中間にあり、
生徒の半分くらいが仏教徒、
もう半分がキリスト教徒というような学校だった。

今回は宗教の話は置いておくが、
キリスト教地区に住む「浦辺」という同級生がいて、
彼は11人兄弟の末っ子。
貧乏子沢山というが、
まさにその言葉を地でいく家庭で
住居は四方、屋根、すべてトタンでできた
10畳ほどの掘っ立て小屋のようなものだった。

浦辺とは、中学も同じで
中学2年の夏休みの最中に父親が他界。
その当時、学級委員長であった自分が
葬儀に列席することに。

浦辺の家を訪れるのは初めてで(外観は見たことがあったが)
少し緊張していたのだが、
着いてみると焼香台は外に設置されていて、
窓から家の中にある遺影を眺めながら焼香するという
斬新なスタイルがとられていた。
浦辺は家の中にいて、
焼香のときにチラッと目が合うくらいだったと思う。

なにより覚えているのは、
焼香に並んでいるときに浦辺の家の畑にまかれた
浦辺家の便所から採取されたものであることが明白な
肥やしが強烈な臭いを発していたことである。
トラウマレベルで。

そんなことがあった翌日、
滅多に訪れることのない浦辺が住む地区に遊びに行くことになった。
着いてみると、港で海水浴をする子どもたちがいて、
急に本当に急になのだが、浦辺が海中から現れて上がってきて、
その足にはウニがグッサリ。
まあまあの量の血が出ていた。
彼は、そのまま「痛い痛い」と言いながらケンケンで家へ帰っていったのだが、
そのときの感情を私は忘れられない。

「親父の葬式の翌日、なにしてるのコイツ」
元気にしているのだろうか。