「出現!ぬるオロC男」

2021/07/12

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

「何してるんですか?」
普段、街中で他人に話しかけることなどない
私の口から出たのは単純な疑問の言葉だった。

駅のトイレ。
私が用を足している間、
その男は一心不乱に擦り続けていた。
オロナミンCを。

こりゃ、よほど生ぬるいオロナミンCが好きなのだろうと、
そのままトイレを出たのだが、よくよく考えてみれば、
オロナミンCを温めるだけなら何もトイレで擦ることはないし、
そもそも生ぬるいオロナミンCは美味しくない。

ここのところ何かと物騒な事件が続いている。
この男も何かの腹いせに、ガスだか薬品だかで
我々をどうにかしようとなんて考えているんじゃ…。

そう思って急いでトイレを後にして帰宅。
机に向かっていたわけだが、
どうも気になる。

誤解のないように言っておくが、
決して逃げ出したわけじゃない。
肉体派とは対極にある私だって、
いざとなれば手刀でスパーン!
懐から縄を取りだし、
ワルツを踊っているように見せかけつつ、
呆気にとられる敵を亀甲縛りぐらいの芸当は朝飯前。

私は決して逃げてない。
むしろ貴様怪我しないでよかったなってな具合であるわけだが、
あの男はトイレで何をしていたのだろうと気になりまくり、
仕事が手につかない。

そんなこんなで…
戻ってみると、まだやっていた。

「何やってるんですか?」

「オロナミンCを温めてるんですよ~(爽やか笑顔)」
「へ~…」