プロポーズ

2021/11/08

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

『サプライズ』を題材にした作品を書いているときにふと思った。
サプライズプロポーズ。
街なかの電光掲示板を使ったり、
レストランやテーマパークで周りが仕掛け人だったり、
非日常の間隙をぬって、
徹底的に攻めるのが良しとされるが、
あれって本当に女性はうれしいのだろうか。

あくまで一個人の意見だが、
一世一代の勝負事をなぜ他人が見ている前で
行う必要があるのだろう。
恥ずかしいに決まっている。
一歩間違えれば真剣味が足りないと思われる可能性すらある。
サプライズは、相手に喜んでほしいという
気持ちからくるものだから否定はしないけれど、
それなら、ふたりだけの空間だっていい。

たしかに雰囲気は重要。
そうなるとホテルの一室がベストか。
日にちは相手の誕生日をはじめ、
何らかの記念日に少し贅沢をして
ホテルに宿泊するとしよう。
レストランで食事をして、
部屋に戻ってシャワーを浴びる。
モハメド・アリみたいにガウンを身にまとい、
窓際に置いてある椅子に座る。

ゴルゴみたいに鋭い視線で夜景を見て、
今日という日を振り返る。
ちょっとしたユーモアをまぜながら、
笑いのある時間を過ごすけれど、
ピタリと会話が途切れる瞬間、
その刹那を逃してはならない。
ざわ…ざわ…ざわ…

ここで必殺の武器、指輪の登場だ。
指輪…あれっ、指輪はどこに隠せばいいのだろう。
自分はガウンを着ている。
ここぞという隠し場所がないじゃないか。
カバンに取りに行くのも間が悪いし、
最後の決め手なのに、指輪の最高演出がない。

これじゃ、フラれてしまう。
この想像、昔もしたことがあって、
同じように指輪を出せずにいた。

昔から何も変わっていなくて、
今も大事なセリフが言えない。
いつか、言えるようになるその日まで、
生きて生きて生き抜いてやる。
その前に相手!!