美容院での出来事

2017/03/13

5年ぶりくらいに行った美容院で女子が声を荒立てていた。

ほとんどの美容院では、席に着くなり「ハイどうぞ」と雑誌を何冊か持って来てくれるわけだが、
どうやらその女子は『ヴァンサンカン』を手渡されたらしい。

「ねぇ、ヴァンサンカンってどういう意味か知ってる!?フランス語で25歳。
 わかってる!?あたし、まだ21!25なんて全然先の話なわけ。
 それとも何?老けて見えるって言いたいの!?」。

その気持ち、わからないでもない。
オイオイちょっと待てよと言いたくなる気持ちはわからないでもないが、
ポップスターのイメージを裏切らぬために、
ある時まで頑なに眼鏡を拒み続けたジョン・レノンのように、
イメージに自分を合わせる、それも優しさのひとつの形ではないか。

女子が怒鳴る声を横に、渡された『小悪魔AGEHA』を読みながら、
私はそんなことを思っていた。


作家 荒木建策