キングギドラを撫でながら

2022/06/27

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

ここ最近、なぜか疲れている。
なんだか体が重く、
高校時代のキレをメッシとするならば、
最近は晩年の小錦といったところで、
とにかく一歩が遅い。

今の自分が求めているのは、
疲労回復に良しとされる糖分である。
チョコでも飴でもなんでもいいから、
私に地球の甘味を与えてほしい。
そんなことを考えていた先週の日曜、
不意に家のチャイムが鳴った。

宅配が届く予定はないし、
どうせ面倒な業者だろうと無視し、
玄関の見える窓から姿を確認すると、
同世代くらいの男女だった。
そして、しつこいくらい
チャイムを鳴らし続けてくる。

勝手に疑うのは申し訳ないが、
このアパートは、
奇声を発しながら
周囲をウロウロする老人や
大量のチラシを投函していく
セールスマンなど、関わりたくない
種類の人間が度々訪れるのである。

それだけに、訪ねてきたのは
夫婦で自分を陥れようとする
保険会社ではないか、
謎の招き猫を売りつけられやしないかと
不安だったため無視し続けたのだが、
これだけチャイムを連打されると
逆に興味がわいてくる。

よし、出てやろう。
このとき、おかしな思考が働き、
なぜかイカれた野郎を装ってみようと
買ったばかりのキングギドラの
ソフビフィギュアを持ち、
それを撫でながら出迎えた。
ギョッとする二人を見て、
先手を取ったとニヤついていたら...

「このたびoo号室に
引っ越してきたooと申します。
これからの数日間、引っ越しにともない
ご迷惑をおかけすると思いますが、
宜しくお願い致します。
これ、お口に合うかわかりませんが...」

そういって包みを渡されたのである。
左手にあるキングギドラを
今すぐ投げ捨てたい、そう思いながら
とりあえず、満面の笑みでお礼を、
そして心の中で謝罪を述べて
逃げるように扉を閉めた。

包みを開けると貴族のお菓子、ラスク。
糖分を摂取したいと思っていたところに、
この頂き物とはまさに僥倖である。

食べてみると、
もう一袋、もう一袋と止まらない。
普段甘いものを一切食べないので、
やはり、私が求めていたのは
糖分だったのだ。

そう確信して、
疲労回復、疲労回復と唱えながら
食べ続けたのだが、
だんだんと気持ち悪くなり、
次の日には、顔にニキビができていた。
体は相変わらずダルかった。