苦痛の共有

2022/07/18

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

デカければ良いというものではない。
デカくて良かった。
そのとき、
相反するふたつの感情が
ほぼ同時に押し寄せてきたのである。

先日、打ち合わせでコメダ珈琲に入った。
相手は中部地方のテレビ局のP。
初対面である。
初対面の相手との打ち合わせは、
やはり気を遣う。

最近どんな番組やってます?
仲の良い作家さんは誰ですか?などなど、
本当に聞きたい訳ではないであろう
当たり障りのない質問が続き、
当たり障りのない答えを返す
アイドリングトークの時間は
苦痛以外の何物でもないが
こちらから目に見える範囲の
彼のファッションや持ち物などに
話を振ったところで
結局はおっさん同士の
気持ちの悪い褒め合いになってしまう。

何なら距離を縮められるだろうか。
考えた末に思いついたのが
同じ食事を注文して
おいしさを共有することだった。
幸い、相手はコメダ珈琲の
本番からの使者だし、
まかせておけば間違いないだろう。

そんなこんなで注文したのは
カツサンドだったのだが、
運ばれてきたそれを見て驚愕した。
デカかった。
想像以上にデカかった。
正直、お腹は空いていなかったから、
その時点で試合終了のゴングが
頭の中で鳴り響いていた。

基本的に、こういった際の食事は
先方がご馳走してくれる。
人様のお金で食事をいただき、
それを残すなんてもってのほか。
半ば泣きながら食べ続けたが、
どうしても最後の一切れに手が伸びない。

気まずさに押し潰されそうになりながら、
恐る恐る顔を上げたら、
自分以上に苦しんでいる相手の姿が...。

「あははっ、デカいっすね。残しますか」
苦しんだことで意気投合することもある。
今、新しい番組を共に作っている。
面白い番組になりそうだ。
苦痛を共有することで
繋がる縁もあるんだなぁ。