カメばばあ

2022/07/25

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

東京では野外に出ているお店を総じて屋台と呼ぶが、
地元では外に出店するラーメン等の飲食店を屋台、
祭りの夜に出ているもの全般を夜店(よみせ)、
昼間だと出店(でみせ)と区別して呼んでいた。

中でも私が最も魅力を感じるのは夜店。
祭りや花火大会に赴いた際には、
問答無用でついつい買ってしまう。
さすがに射的や輪投げなどは卒業したが、
キンキンに冷えたドリンクや
焼き鳥や焼きとうもろこしなどを堪能する。

地元には、チョコバナナやりんご飴、
トルネードポテトやベビーカステラなど、
東京ではベタな種類の夜店を見たことがなかったので、
上京した当初は物珍しく、
嬉々として色々試してみたのを覚えている。

忘れられないのが、
ある祭りの会場に出店していた夜店。
その名は「カメばばあ」
金魚すくいならぬカメすくいの店で、
店主がカメばばあと呼ばれているのが由来らしい。
ルールは簡単。
500円を払って針金のついたモナカでカメをすくう。
モナカが針金から取れてしまうとゲームオーバー。

最初の印象は、
「ミドリガメって気持ち悪いな」だった。
「すくっても飼えないし」と現実的なことも考えていると
段ボール紙に気になる一文を発見。

「カメがいらない人はカメばばあが千円で買い取ります」

一匹で500円の利益。
1トライで二匹、三匹とすくうことができたなら、
1000円、1500円と利益は増す。
可能性は無限。
なるほど、これはギャンブルだったのか。

やってやろうじゃないの。
まずは、騙されてはいけないと怪しいところを観察。
モナカが特殊な加工を施されたもので、
すぐに取れてしまうのではないか?
そう思っていると、
カメばばあは狙いを定めあぐねている小学生のモナカを
「貸してみな」と取り上げて、
いとも簡単にカメをすくいあげた。
怪しいところはなし、か。
コツさえ掴めばどうにかなるということ。

金魚すくいで二桁すくったこともある私にはちょろいか。
申し訳ないけど稼がせてもらうよ、
といった感じで500円を払ってやってみると、
モナカは3秒で取れた。

そんなことをふと思い出し、
カメばばあ、まだやってるのかなとググってみたら
ミドリガメの輸入が2020年に禁止になっていた。
時代だなぁ。