釣果

2022/08/01

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

先日、後輩に誘われて釣りに行ってきた。
最近元気がないから、という理由で誘ってくれたらしいが、
学生時代の後輩に言われると、嬉しいような悲しいような。
複雑な気分のまま待ち合わせ場所へ向かった。

釣りに関しては五島列島育ちということもあって、
最低限の知識はある。
ただ、誰かに教えてもらったことなどないので、
竿を組み、仕掛けをつける、それぐらいのことしかできない。
餌をつけるのも魚を針から外すのも後輩任せ。
気持ち悪くて触れたもんじゃない。

釣り場に到着して竿を垂らすこと数十分。
後輩が次々と釣り上げるのに対し、自分は0。
何気なく竿を上げてみると、餌がついていない。
なんなら針すらついていない。
そんなことの繰り返しである。

後輩曰く、魚が食ったと同時に合わせなければならず、
その合図が手の感触とウキが沈んだ瞬間だという。
そんなことは知っているのだ。
反応が追いつかないだけで。
後輩はメガネを忘れたようで、
ウキに頼らず手の感覚だけで釣っているという。
それに対して自分はベストコンディション。
このまま引き下がるわけにはいかない。

待望のファーストヒットは竿を垂らしてから1時間後。
急に引きがきて、慌てて竿を持ち上げると、
懐かしい感触が手に伝わってきた。
これこれ、この感触が釣りの醍醐味である。

後輩にタモを出してもらって陸に上げると、
口ではなくデコに針が刺さったカワハギが暴れていた。
それでも、釣り上げたことに変わりはない。
すると、後輩の釣り魂に火が点いたのか...

後輩「車からメガネ取ってきます」
荒木「お、お前もウキに頼るときがきたな」
後輩「いえ、堤防に座ってる女の子、パンツ見えそうなんです」

パンツを見るためのメガネだった。
だから、教えてやった。
「あれは見せパン。見る価値ナシ」

肝心の釣果は、2時間ほど竿を垂らして後輩が20匹、
私は2匹と10倍の差をつけられた。
釣りというのは、ここまで差がつくスポーツなのか。
後輩に負けるジャンルがあるというのはなかなか悔しいもので、
元気が出るどころか逆に落ち込んだ。

釣りの一件以来、後輩は私のことを格下だと思ったのか、
脱出ゲームの誘いがひっきりなしにやってくる。
夜中の24時から開始の脱出ゲームに、22時に誘いがくる。
無茶な感じは学生時代のまま。
高校生じゃないんだから無理だと告げると、
昔の熱さを思い出してくれと、上から目線で言われ、
本当に思い出したような気がしている私は、
今、とてもあつい。