不動産の写真に想う 1/2話

2023/09/04

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

私は...引っ越す。
5年以上住んだ土地を離れるにあたり利用したのが、
今では当たり前となった架空の超有名探偵の名を冠する
某不動産サイト「H」である。

様々な不動産会社が持つ物件を
一括で探すことができる便利サイト。
ついに、私も利用する日が来たのだと
嬉々として観てみると、
魅力的な物件がまさに「満載」で心が躍った。
候補として挙げた物件は、
その数...十余件。
いや、もっと多かったかも知れない。

全ての物件を見て回るのは物理的に無理だろうし、
不動産屋にも迷惑がかかるだろう。
そう思って、
普通は、何軒くらい候補に挙げるものなのだろうと
ネットを駆使して調べてみると、
引っ越したい街周辺の3軒くらいを候補に挙げて
内見しに行くのが一般的なのだそう。

なるほど、と
1週間ほど費やしてこれぞという3軒をチョイス。
サイト上でその3軒全てを紹介できると
最初に連絡をくれた不動産屋に連絡して
内見の予約を入れた。

※現在は、「H」に載っている不動産なら
 実はどこにある不動産会社でも紹介できるそうなので、
 レスポンスの早さに重きを置いた次第です。

厳選した3軒であるから期待値は上がりに上がっている。
内見の前日は、眠れなかったと言っても過言ではないし、
過言かも知れない。

ということで、いざ、内見の日。
午前中に新天地の最寄り駅にほど近い不動産屋に到着。
予想はしていたのだが、担当者が出てきて、
候補に挙げた3軒以外の周辺物件を
お腹いっぱいになるほど紹介される。

せっかく絞ったのに...
などとは思わず(思わないことにして)
「H」には載っていない良い物件が出てくることを
期待したのだが、どれもはじめの3軒を上回ることなく、
結局申し込んだ3つを見に行くことに。

最初に見たのが、
ネット上で一番気に入っていた物件。
入ってみると...
「あれ?写真で見たのより、随分狭く感じる」
もちろん、ネットの物件サイトに載っている
写真のほぼ100%が広角レンズを使って撮られたもので、
加えて加工までされているから
行ってみるとイメージと全く違うかも知れないことは
想像していたが、それにしても...。

結論から言うと、
次も、その次も同じだった。
写真とは似ているが何とも言えない残念感が。

「ガッカリだよ!」

と内心思ったが、
もう、その頃には夕方になっており、
見学に疲れていたのもあって、
なんだかなーと思いつつ最初に見た物件に決めたのだった。
これを人は「妥協」と呼ぶのだろうか。

その後、
フリーランスの人間の割には、
幸か不幸か契約は思いの外とんとん拍子に進み、
10日かからずに入居が決定したのだが、
その間に、怒りが沸々と込み上げてきた。

「騙された?」

いや、選んだのは私だ。
いや、違う。
...こんなはずじゃなかった。

...ん?待てよ。
この感覚...何かに似ている。
あ、アレだ!

                       2/2話に続く