保安検査

2023/08/28

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

空港の保安検査所で
意味もなく緊張してしまう人は少なくないと思う。
金属探知のゲートをくぐる時に息を止め、
アラームが鳴らなければ一息つくような緊張感は、
何度経験しても私は慣れない。

保安員のあの不正は許しません然とした、
制服姿に潜在意識下で恐れを感じているのだろうか。
安全な飛行のために
保安検査が必要なのはわかっているのだが、
日本列島の西の果てから出てきた私は、
「私みたいな田舎者が偉そうに
飛行機なんかに乗ってすみません。
空輸されて申し訳ございません」と、
飛行機に乗る前から気後れしてしまうし、
場合によってはパンツまで脱がされる可能性がある、
という事実も卑屈感を倍増させる。

もちろん、今までに怪しいものが出てきて
捕まったなんて経験はないし、
これを読んでいるほとんどの人も、
誰かが捕まっているのすら見たことがないだろう。

だが、私は過去に一度だけ捕まっている
人間を見たことがある。
しかも、同行者が。

以前、同級生の男と一緒に飛行機に乗る機会があったのだが、
そこでちょっとした事件があった。
彼は、ゲートに並ぶ前からそわそわ。
くちびるは、ちびまる子ちゃんの藤木くんくらい
紫色になっていた。

「俺、捕まるかもしれない...その時は先に行け」

Vシネマかよ。
何か危険なモノを持ち込もうとしているのなら
止めないといけないが、彼に限ってそんなハズはない。
どうしよう...と一瞬考えて
「分かった」と答えた。

私が安全に金属ゲートをクリアして、
X線検査を受けた荷物を受け取った時、
係員が後ろに並んでいた同級生に声を掛ける。

「お荷物の中にスプレー状のモノが
入っているようなので確認させてください」

彼は、ためらいながら鞄を開ける。
中から出てきたのは...
スカルプジェット(育毛剤)。
保安検査官、同級生の彼、私の間に
一瞬だけ大きな闇が生まれた。

保安検査官①(男性)「...ご協力ありがとうございます!」

友人「...はい」

保安検査官②(女性)「(なんとも言えない苦笑」

私「(大爆笑)」

彼女にもらった
誕生日プレゼントだったというが、
それ以来、私は彼のハゲをいじれるようになった。
ここ5年ほどの蟠りが解消された瞬間。

保安検査よ、ありがとう。
というお話。