夏はサザエ

2023/08/21

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

五島列島育ちの私にとって、
夏は「サザエ」の季節なのである。

小中学生の時分、
多くの小中学生がそうであったように、
夏休みになると毎日海に出かけて、
少し潜れば簡単に見つかるサザエを獲っては、
持ち帰ったり近所に配ったりしていたものだ。

サザエ。
名前の由来は、殻を小さい家に見立て、
「ささ」(小さいの意)+「(い)え」(家の意)
という意味だとされている。
漢字では、栄螺。
螺は、巻貝のこと。
「栄(さかえ)」がサザエに音が近いことから
その名が付いたとも云われる。

サザエの特徴は、
貝殻にある無数の「ツノ」であるが、
ツノがないものもあり、
私が獲っていたサザエは、
主にツノナシのものであった。

ツノナシサザエには、
日蓮上人に因んだ逸話が残されている。

日蓮上人が上総から鎌倉を目指したときのこと。
日蓮一行は途中で嵐に遭い、船底に穴が開いた。
そこで、日蓮がお題目を唱えると、
大きなアワビが張り付いて、穴を塞いでくれた。
その後、一匹の白い猿が現れ、猿島までたどり着く。
近くにいた船に乗り、現在の横須賀の海岸に
上陸しようとしたが、一面は岩礁で近づけない。
そこで、船頭は日蓮を背負って上陸。
船頭の足はサザエの角で傷つき血が流れていた。
日蓮は、またもお題目を唱えて船頭の出血を止め、
さらには、辺りのサザエの角をとってしまった。
これ以後、ツノナシサザエは、
縁起物とされているのである。

しかし、実のところ、
ツノの差は生育環境によるもの。
波の荒い場所では、流されないように
ツノがアンカーの役目をするために立派に突き出し、
穏やかな場所ではツノが生えない。
その証拠に、ツノナシが波の荒い場所に移動すると、
普通にツノが伸びてくるのである。

ツノの有無は、味には全く影響がないが、
ツノの部分の重さが軽くなるため、
少しでも安く買いたい関西人はツノナシ、
格好にこだわる関東人はツノアリに人気がある。

我々の地元では、
ツノのアリorナシには、
実は、別の意味があった。
それは、「密漁か否か」

実は、ツノが無いサザエは、
漁師が沖合で獲ってきたものを湾内で放流し、
成長を待っている状態のもので、
獲ってはいけないサザエだったのである。

当時、子供だった我々は知る由もなく、
普通に獲っていたが、
(乱獲と言っていいほどの量を)
今となっては時効だろうし、
罪を追求されるとしたら、
子どもたちが獲ったサザエを
キロ1000円で買い取っていた民宿かも知れない。

最後に、豆知識をひとつ。
サザエの苦みが苦手だという方は、
身の部分の一番太いところの周囲を覆っている
茶色のビラビラした部分を取り除いて食べると、
全く苦みを感じなくなるのでオススメです。