プロ友人

2024/03/25

荒木建策(放送作家/アリゴ座主宰)

先週の金曜日の話である。
時刻は、深夜1時過ぎ。
パソコンのメールをチェックし、歯を磨き、
さて寝るか、と思ったところでスマホが鳴った。

こんな夜中に誰が...。
慌てて開くと「M木」の文字。
奴とは大学時代からの腐れ縁である。
金曜日の夜...
どうせ酔っぱらってんだろうと思いながらも
泣きたい夜もあるだろうから、
電話ぐらい付き合ってやるかと、
応答のボタンを押した。

内心、何かあったのかとも
思っていたような気もする。
身内の不幸とか。
ペットの不幸とか。
共通の友人の不幸とか...。
不幸ばっかりかよ!

「もしもし、何してた?」
「これから寝るところ。どうした?」
「別に用事はないけど、いいだろ?」

完全に付き合って間もない、
まだ照れが残るカップルの会話である。
酔っているならまだしも、シラフだという。

とりあえず、数ヶ月前に飲みに行ったときの
思い出話なんかをした後、
ひと通り近況などを報告し合う。
30分ほどの会話をし、
また今度飲もうとか、
そろそろ寝るわとか、
電話を切る素振りを見せた瞬間だった。

「それはそうと、6月に愛媛で
妹の結婚式があるんだけど、来る?」

えええっっっ!
何この急展開!?

妹さんとは全く面識がないし、
愛媛は遠いし、
四国なんて一度も行ったことがない。
愛媛に行くくらいなら、
香川でうどんを食べたい。
でも、M木がどんな顔してお兄ちゃんと
呼ばれているのかだけは見てみたい。
しかし...。

「いや、俺、妹さんに会ったことないし。気まずいわ!」
「結婚式までに一回飯でも行こうよ」
「どこで?」
「ゴールデンウィーク、東京来るから」
「ああ、そうなの?」
「...でさ、もし会ってみて打ち解けたら、
妹の友人代表のスピーチしてくんね?」
「はあ?」
「お前、得意じゃん」

マジでふざけるなと思った。
確かに私は、
今までに友人の結婚式で、
いわゆる「友人代表挨拶」を7回やったことがある。

超の付くあがり症なので、
毎回、作ってきた文章を読み上げるスタイルで
やらせてもらっているのだが、
綴った文章は三日三晩寝ずに考えている、
と言っても過言ではないほどの内容だと
自負しているし、
10年前のスピーチを今でも面白かったと
褒めてもらえるほど身を削って作っているのだ。

だが、それは、その人と付き合って、
知り尽くしているからできることなのであって、
一度会っただけの相手に対して
できることではない気がする。

「お前の妹、友達いないの?」
「...そうなんだよね」
「...そうかー」
「やってくれるか?」

私は、6月にM木の妹のプロ友人になるかも知れない。
愛媛の美味しいもの、教えてください。
みかん以外で。