天使的だ~!

2024/09/30

荒木建策(放送作家/脚本家)

ある有名串カツ店では、
サイコロを2個振って
奇数が出ると、料金の2倍、量2倍。
偶数が出ると、通常サイズで料金半額。
ゾロ目が出た場合は、一杯無料。
という定番のチンチロサービスがある。

奇数のとき本当に2倍になっているのか、
そもそも原価はいくらなのか、
そういった細かいことはさておき、
フラットに考えると振った時点で
理論上、勝ちなのである。
奇数の場合はチャラで、
偶数とゾロ目の分が浮きになるからだ。

ただ、奇数が出たときのダメージは、
軽い段差で足をくじいたときの
それと同じ程度と思って間違いない。
さあ、これから飲むぞ、
そう意気込んだ矢先に
メガジョッキがくるとする。
アメフト部ならまだしも、こちらは中年。
持っただけで手首を痛めそうなサイズは、
手首だけではなく心も折るスタイルで、
テンションが根こそぎいかれるのだ。

原価の問題はナシにすると言ったが、
店側、腹黒いオーナーからすれば、
奇数が出るに越したことはない。
角ハイボールといいながら、
謎の業務用ウイスキーかもしれないし、
量をさばけることは悪いことではない。
敵の腹立たしい胸の内も見え隠れする中、
こちらとしては出された勝負は受けて立つ
ストロングスタイルで生きてきたから、
気持ちよく受けてやりたいが、
それはあくまで五分の場合だ。

ここ最近、私はイカサマを疑っている。
なぜか奇数の目が多すぎるのである。
自分が採取したサンプルでは7:3の割合。

...やってんなぁ。
考えられるのはサイコロの変調だ。
サイコロを投げ入れるお椀に
細工を仕掛けるのは悪魔的発想というか、
そんな技術があるのなら串を揚げてないで
違うビジネスをしましょうって話だから、
仕掛けがあるとすればサイコロだからだ。

そこで、サイコロをよく調べてみると...
片方のサイコロの3の面が
視認できるレベルで欠けていたのである。
その場にいた私以外の者たちは、

「おいおいどうした、田中!
イカサマサイコロ使ってんじゃねーか!」
ざわっ...
ざわっ...

となっていたが、私は努めて冷静。
なぜなら、どちらかのサイコロに細工が
なされていても意味はないからだ。
例えば、
片方のサイコロが必ず奇数になるとして、
この場合、
もう片方が必ず偶数にならないと
合計で奇数にはならないからである。
ゾロ目は、もちろん6分の1。
ということで、
サイコロに細工されている線もなし。
一時期の確率の偏りだったようだ。

それに、
心と手首を折るハイボールは2杯で止まる。
正確には酔っ払って早く帰りたくなるのだ。
半額や無料だと長く引っ張られ、
油断したら熱燗にまで
手が伸びてしまう可能性もある。

罰ゲームのように悪魔的なメガジョッキ。
実は懐に優しい天使的な代物なのである。
ありがとう、串カツ田中。