Silence is Golden

2025/05/05

荒木建策(放送作家/脚本家)

仕事の先輩、後輩、男女、友達問わず、
二人っきりで飲みに行き、
沈黙の時間が流れれば気まずくなるわけだが、
極まれにそんな時でも気まずさを
感じなくて済む友人がいる。

簡単な近況報告を終えて、
くだらない男同士の会話をしたあとは、
必ずと言っていいほど
沈黙の時間がやってくるが、
無理に話題を提供することはない。

沈黙を苦にしないリスペクトというか、
「楽さ」がある。

「あっ、ゲーム、やっていい?」

と、数日前の飲みでは、
その友人が時計を見ながら言い始めた。

「ちょっと30分だけ!
この時間しかレイドができないのよ」

どうやら、スマホゲームが忙しいらしい。
時間限定のイベントだろうか。

「別にいいけど」

と、返す前からやり始めていたのだが、
シャツをビシッと着こなした大人が、
全ての指を駆使して
スマホをビシビシ叩く姿は異様というか、
はっきり言って気持ち悪かった。

後輩にやられたら俺にかまってくれよと
泣き言を言ったかも知れないし、
場合によっては縁を切るかも知れないが、
彼のことは何故か許せる。

ということで、
真剣にゲームを楽しむ40歳過ぎのおっさんを、
30分近く微笑ましく眺めていたわけだが、
周囲のお客さんは普通に引いていたし、
その視線を四方から感じ取り、
何故だかこっちが恥ずかしかったが、
彼のことは何故か許せる。

この世に知り合いは、
それこそ何人、何十人、何百人もいるが、
親友と呼べる人はいったい何人いるだろうか。

ひさしぶりに会っても、
ひさしぶり感がない、
一年会えなくてもすぐ会えるような、
そんな感覚を持てる人に何人出会えるだろうか。

その日は、
15時から飲んだせいで、
23時にはベロベロになって解散したのだが、
友人はその後、いきつけの店に飲みに行き、
初対面の女性を酔った勢いで口説いたらしい。

というのは、
翌日にマスターから聞かされた話で、
本人は全く覚えがないらしい。

私も記憶が曖昧だが、
たしか『実写版マインクラフト』を
見にいく約束をしたような気がする。

男たるもの約束は守らなければならない。
たしか、GW中にと約束したはずだ。

「マインクラフト、いつに、どうする?」

「ごめん、もう見ちゃった。
あんまり面白くなかったよ」

「えっ!?色々ショックなんですけど!」 

それでも笑って許せる。
そんな友達が何人いるだろうか。
私もそう思ってもらえるような人間になりたい。