荒木建策（放送作家/脚本家）

私は、トイレに関してかなりうるさいほうだ。
間取りから便座、換気システムやアメニティなど
その他たくさんのこだわりがあるけれど、
とりわけ飲食店にウォシュレットが
設置されていないと、
「ボッタクリじゃねーか！」と、
トイレの中で叫ぶ。

私のように胃腸の弱い人間にとって
ウォシュレットの有無は死活問題。
弱り切ったお尻に
やさしい放水をしてあげることによって、
尻メンタルを快復したいのだ。

稀にウォシュレットがついているのに
故障かバカ店長の指示で電源を切っているのか
放水されないトラップもあるので、
細心の注意を払う必要がある。

飲食店に当てはめると、
全ての店とは一概に言えないが、
トイレに気が配られているところは優良店だ。
清掃や設備が行き届いているのは、
お客の顔を気にしているからに違いない。

顕著に表れるのがトイレットペーパーで、
繁盛店と呼ばれるお店が
トイレットペーパーを切らしているのを
見たことがないし、
まだ半分は残っているような状態でも
新品と替えたりするところもある。

過剰な気配りにも思えるが、
人の数より幽霊のほうが多そうな
公園のトイレじゃあるまいし、
紙が切れるなんてことが起こってはいけない。

先日、
評判の飲み屋でトイレに行って、
いざ紙に手を伸ばしたら…
ふたつあるはずのトイレットペーパーは
どちらもなくなっており、
その上（ペーパーの屋根になっている部分）には、
芯が立てて置かれていた。

頭が真っ白になるとはこのことか。
前任者はせめて危機を教えてあげようと、
見やすいように気を遣ってくれたのに、
気付かなかった私が悪い。

どうしたものかと考えてみても、
やれることはひとつ。
ウォシュレットで応急処置をして、
付いている感覚は避けられたものの、
40年以上守ってきたルーティンを破るのは
かなり気が引けた。

ズボンとパンツを履き、
濡れた尻をなるべく動かさぬよう慎重に、
シャム猫が歩くように
そっと隣の個室に移動したら用具室で、
慌てて扉を閉めて逆隣へ移動して助かった。

とてもじゃないが、
気分は闇より深く、
もう飲み続ける気分でもない。
残ったビールを胃に流し込み、
家に着いてパンツを確認しながら、
ツイてねーなと呟いた…。

やかましーわ！

閑話休題。

私は駅などにある
「誰でもトイレ」を利用することが多いのだが、
あの室内にある「非常呼び出し」のボタンは、
もし、紙がないときに押してもいいのだろうか？
といつも気になっている。

もし、ありだとしても、
ペーパーの受け渡しをどうするかが
一番の問題な気もする。