男気

2017/09/25

「お前バイトだよな?ちょっと上の奴呼んでこい」。
平和ボケしていた贔屓の蕎麦屋の店内に緊張が走った。
声のトーンからして、
「美味しい蕎麦をありがとう」と店主を呼んで直接お礼を言おうといった感じではない。
案の定、しばらくして出てきた店主に、かの彼は開口一番こう言った。
「釣りやるから、本物の蕎麦を食って勉強してこい!」
千円札をテーブルに叩き付け、呆気に取られる店主を他所に、彼は颯爽と去っていった。
おっさんの行動は、正しいかどうかは別として何だか男っぽかった。
マズいと感じたそばにほとんど手を付けず、
そのまま店を後にするおっさんに、私は男らしさを感じてしまったのである。
そして、私は、週に1度は必ずや通っていた蕎麦屋を卒業することに決めたのだった。


流されやすい荒木
建策