ひと言多いと貰いが少ない

2018/07/23

シャッターが降りた店の前で、
「100円でもいいので恵んでください」と書かれたダンボールを抱えた男が座っていた。

一億総中流も今は昔、一人の金持ちを百人の貧乏人が支える時代がすぐそこまで来ていると聞くし、
赤の他人に施しを与える余裕はない。

そのまま素通りしようと決めたところで、何故か『鶴の恩返し』が頭をよぎった。

何かのきっかけで家を失い、家族を失い、貯金まで失っていたとしても、
たまたま不運が重なっただけで、この男、きっかけさえあればドカンと一発当てるんじゃないか。
いつの日か天下を取って、渡したお金を何百倍、何千倍にもして返してくれるのではないかと、
いやらしい考えが頭をよぎり、ポケットをまさぐると、缶コーヒーを買ったおつり70円が入っていた。
しかし、彼にとっての最低単位は100円。
「…足りねーしな」と思いながら、やっぱり素通り。

次会ったら「アンタひと言多いよ」と、優しく語りかけようと考えている荒木なのでした。


荒木建策