謝罪の技術

2018/08/27

くたびれたスーツ姿の男性が隣の部屋の玄関先で、しきりに謝罪の言葉を繰り返している。
仕事中に音楽をかけることはある。ラジオを流すこともあるが、
ひたすら繰り返される「すみません」をバックに仕事をするのは初めての経験であり、
ハイトーンの素敵な「すみません」をぼんやり楽しみながら、パソコンに向かっている最中である。
ちょっとしたアンケートにも必ずある職業欄。
どうしても埋めるよう迫られたら、私は「フリーター」と記す。
以前は「フリーライター」と記していたが、3回に1回の割合で締め切りをぶっちぎって平謝り。
これの何が書き手かとの思いが、ライの字を奪い去るのだ。
聞く者の諦めを呼び起こし、許してやろうかとの思いにさせる「すみません」。
今も聞こえるあの「すみません」をマスターしたら、フリーターから卒業できるかもしれないが、
実際どうなのだろう。
今もなお怒鳴られているところをみると、
謝罪の能力より速記の能力を鍛えた方が良さそうな気もする。

荒木建策