非通知の闇

2019/02/11

私は今、追い詰められている。
いつもの追い詰められ方をモヤシのような二等兵だとしたら、今はイカつい上等兵。
果たして戦えるのか。
ここは全てを諦め、どこか遠くの南の地へ。
南千住にでも逃げたろかとの考えがよぎる中、原稿の催促に紛れ、
ちょくちょく非通知の電話がかかってくる。
表示される「非通知設定」の文字に漂う邪悪な香り。
宗教の勧誘か、それとも駄目な別れ方をした昔の女の悪戯か。
「貸してたブルース・リーのビデオ、今すぐ返して」
今になってそんなことを言われてもと、呼び出されたファミレスで弱っていると、
向こうからイカつい上等兵が現れる…。
非通知の向こうに見えるのは、そんな恐ろしい光景であり、
とてもじゃないが取れずにいるわけだが、冷静になって考えればただの非通知。
かつてプッシュホンがイケてるとされていた時代には、
通知されない電話を楽しめたじゃないか。
誰だろう、もしや学校一の美女と言われるあの娘かもと、
発信元がわからぬ電話に胸躍らせていたというのに、
いつから非通知に怯えるようになってしまったのか。
スマホのせいでスマートではなくなっているのではと感じる繁忙期である。


荒木建策