戒め食

2019/07/01

この街には、旨いハンバーグを出す通称「ウマバーグ」と、
不味いハンバーグを出す「マズバーグ」とがあり、
仕事が上手いこといったときはウマバーグ、
ミスをしたらマズバーグと状況によって使い分けていた。
値段は変わらないのに、味は両極端なハンバーグ屋が軒を連ねていることが、
この街に住む理由のひとつでもあったのに、昨年、ウマバーグが店を畳んだ。
「何もウマイ方からなくならなくても…」
閉店の知らせを聞いた夜には、唇を噛んだものである。
そして、先日、マズバーグの前を通りかかるとシャッターが下ろされ、
閉店を匂わすようなことが書かれていた。
現時点ではこの街に、ウマバーグはおろか、マズバーグすらない。
あるのは可もなく不可もない、普通レベルのフツバーグだけである。
今、ハンバーグ市場で何が起こっているのだろう。
世の中の動きとは裏腹に、格差を嫌い、
平等化の波が進んでいるとするならば、それは由々しき事態だ。
もしこのままマズバーグまで失った場合、自らを戒める際に何を頬張ればよいのか。
いい歳して他に書くことねーのかと、誰もが思っているだろうし、自分でも強く思うわけだが、
度々自らを戒めねばならぬ身としては、
マズいけどクセになるハンバーグ屋が消えゆくことは死活問題なのである。


荒木建策