歯科医良好

2019/10/07

「ちょっとだけ痛むかもしれませんけど、我慢してくださいねー」
「ちょっとだけ」や「痛むかもしません」に幼少の時分から幾度となく騙されてきた私は、
歯科医の言うことなど端から信用しない。
これからくる痛みの度合い、即ち覚悟の度合いを決めるのは、
ドリルから発せられる音の高低である。
「ギュイーン」なら安心だ。
ドリル音が森山周一郎の如きトーンであれば、悪いところをピンポイントで攻められても痛みは鈍い。
身体はかろうじてリラックス、両手はパーのままだが、
発せられる音が「キュイーン」という、大屋政子を思わせる高音だった場合、両手はグー。
医師が手にしたドリルから「うちのお父ちゃんは…」と聞こえてきた場合には、
鋭い痛みに耐えるべく両手はカッチカチのグーである。
現在、午前0時過ぎ。皆様だけではない。
だからなんだ、グーだからなんなんだという疑問が、清々しいはずのこの時間に私の中でも渦巻いているが、
重要なシーンで自慢のウーハーからズドンとくるような高音ドリルばかり使っている先生も、
ちょっとは見習って頂きたいのである。


荒木建策