自信

2019/10/14

すき焼きの味が薄いように感じて醤油を加えたら、
今度はしょっぱくなってしまい砂糖を加える。
と、何となく入れすぎたような気がして再び醤油を足すといったようなことを繰り返す内、
正解を失うこともある。まさしくそんな状態だった。
自分に自信があるとは言えない。
さりとてないとも言い切れない。
あるのかないのかわからぬが故に、どうしたらいいかもわからない。
そんな最もタチの悪い状態にある時だった。
「美容師さんでしょ?」
「違います」
「わかった。プログラマーだ!」
東京に戻るまでに原稿を一本あげねばならぬこちらの心境は元のまま。
眠たい話を振られ、わずらわしさに磨きがかかったというのが本音であり、
パソコンの画面に視線を落とし続け「黙ってジャンプでも読んでいやがれ」
という言葉ではなく態度伝えたものの、彼女にはまるで伝わらなかった。
「ねえ、やっぱりプログラマー?その若さでスゴいね」
「プログラマーじゃないです。若くもないですし」
「うっそ。若いじゃん。アタシ、いくつに見える?」
「さあ」
「ねえ、いくつに見える?」
「20代後半とか」
「いやだ、嬉しい。アタシ来月で32」
あんたの年齢とかどうでもいい。本当にどうでもいいのである。
「アタシもあなたぐらいの年齢に戻りたいなぁ」
「戻りたいって、オレ37ですよ」
「うそでしょ?」
「いえ、ホントです」
「すっごーい。なんだアタシより年上だったんだぁ。早く言ってよー」
37に見えないのはわかったが、
距離感をグイグイ縮めてきたことと、年上と知ってもなおタメ口なのが少々引っ掛かる。
「見えない。37にもなると、色々あると思うんだ。
でもね、アナタならできると思う。自信を持っていいと思うよ。」
なおも続くマシンガントーク。
その中の「自信を持っていい」のフレーズに、今度はわずらわしさとは別の感情が芽生えていた。
そんなもん言われなくても…と、若干の憤りを感じたとき、はたと気付いたのであった。
根拠こそわからぬが、なんだ、オレ自信あるんじゃないか…と。
名古屋で降りていったキミよありがとう。
これで明日からまた自信を持って台本書けそうです。


荒木建策