クリギツのシーコー(ぎっくり腰)vol.5

2019/12/02

これまでに幾度となく悩まされてきたが、
過去のそれを高見山としたら、今回は高野山レベル。
世界クラスの痛みが、私の腰を襲っている。
立ってもダメ。座るのもダメ。歩くのもダメ。横になるのも仰向けはダメ。
痛みを遠ざける唯一の体勢はうつぶせであり、
家にいる間はうつぶせでテレビを眺め、本を開き、
今も背筋が悲鳴を上げるのを感じつつ、うつぶせで原稿を書いている。
それでも今日はまだいい。
うつぶせでいられる分、まだ助かっているが、昨日は地獄だった。
長時間座りっぱなしの会議で存分に痛めつけ、
世界クラスの痛みを誰もが認める世界チャンピオンにまで引き上げた後、打ち合わせが待っていた。
腰の痛みを引き合いに出しても、場の雰囲気が柔らかくなるどころか、
冷笑されることが容易に想像できる真剣な打ち合わせ。
現場に着き、豆腐をお皿に移すかの如く、ゆっくりとソファーとの距離を縮めていったが、
尻がソファーに触れた途端、激痛が走り、そのまま横に倒れた。涙が出てきた。
お冷を運んできた店員が怪訝そうな顔をしていた。そんなもんに構ってなどいられなかった。
ぶっきらぼうにブレンドを頼んだ。
1ミリでも動けば、再び激痛に襲われるのがわかった。
体勢を戻そうにもなかなか動けなかった。厳密には動く勇気が出なかった。
寝ながらタバコを一服つけた。
どうしてこんなことになったのか…。
紫煙をくゆらせながら腰について思いをめぐらせていると、
好奇の表情で私にスマホを向ける人が立っていた。打ち合わせの相手だった。
「いや、寝そべりながらタバコを吸っている人の写真が1枚必要でして…」
「嘘つけー!!!」


荒木建策