暇と酒

2020/05/04

ペペロンチーノが塩コショウと鷹の爪さえあれば簡単にできることは知っていても、
暇と酒が揃うとできあがるものを知る者は少ない。
この自粛生活を休みだと思い込めば、長めのバケーションかも知れないが、
貧乏暇なし時間なし、ビタ一文休まずコツコツと安い仕事をこなしてきた私が唯一得たものは疲労である。
そう断言できるほど、全身にビッシリ疲れが貼り付いているというのに、夜中に電話をかけてきて、
「アムロ、今からそっちへ行きまーす」とだけ言ってブツッと電話を切った彼本来の姿は、
カルピスを勧めれば「あっ、自分薄めで結構ですから」とでも言いそうな謙虚で控えめな男である。
にもかかわらず、彼を突き動かしているものは何なのか、
夜中に電話を鳴らし「今から駅前にきてねーん。でなければ、家に突撃するからねーん」と、
脅された挙句、何故かテレフォンショッキングをやらされた。
「いつかテレフォンショッキングに呼ばれるかも知らんだろ」
「絶対にない。いいとも終わってるし」
「今の日本に、絶対的なものなどひとつもない。違うか?
  じゃあ早速リハーサルを始めよう。何でも『そうですね』って答えてやるからな。さあ」
「今日は暑かったですね」「そうですね」
「結構、飲まれてますね」「そうですね」
「家で飲んでたんですか」「そうですね」
「もう十分でしょう」「そうですね」
「そろそろ切っていいですよね」「そうですね…って、コラッ!」面倒くさい。
この上なく面倒くさいことに加え、ゲストで呼ばれたはずなのに、
何故か私がタモさん役というイージーミスのおまけつき。
酒は人を狂わせ、持て余した時間は人を怠惰に向かわせ、神経を高ぶらせるが、
それが合わさると、面倒くさい人ができあがることを知った朝ぼらけ。
皆様はどうか素敵な一週間をお過ごしください。


荒木建策