捻くれた顔

2020/06/22

「捻くれた顔になったね」。
およそ20年ぶりに(リモート)飲み会で顔を合わせた同級生の、私に向けてのひと言である。
続けて放送作家という職業に対し遠回しに揶揄された。

どれだけ有名な番組を構成しようと、携わるもののクオリティを上げようと、
バラエティ番組に軸足を置いている以上、そうしたそしりは免れない。

内田という男がいる。かつての名前はクズ内田。
ある番組のスタッフとして同じ釜の飯を食っていたが、
突如としてフィリピンに旅立ち、ひん曲がったキュウリにも似た顔を忘れそうになった頃、
日本へ戻り、今はNPO法人理事としての顔も持つ。

企業が利益を追求するのに対し、NPO法人は社会貢献を目的とする。
内田が理事を務め、彼の考えに賛同する若手作家が脇を固めるその法人は、
子供に対する支援を掲げ活動を行なっている。
その成果のひとつが毎年、夏に行われるサマーキャンプ。
フィリピンの子供たちがデザインしたTシャツを日本で販売。
そこで得た収益によって、東日本大震災で被災した子供たちをキャンプに招待するのだという。

放送作家としての内田は、見ていて実に歯痒い。
さっさと終わらせて飲みにいってやろうとの魂胆が、台本から透けて見えるからである…などと書けば、
より一層不安に駆られることだろう。
歯痒い酒飲みが理事を務めるNPO主催のキャンプ。
しかもその男は元を辿れば、クズを名乗っていた男である。
馴染みのない方からすれば、かかる費用のほとんどがTシャツの収益で賄われ、
自己負担はほとんどないとはいえ、応募に多少のためらいを覚えるかもしれない。
故にエピソードをひとつ付け加えると、
顔は曲がっていても中身は真っ直ぐ、有言実行を絵に描いたような男はある夜、電話口でこう言った。
「NPOは一生続けていくつもりです」
作家業においては本気で追い込む姿をなかなか見られぬ男から、初めて聞いた「一生」の言葉。
此度のサマーキャンプは、内田が放送作家ではなく、
ひとりの人間として真剣に何かと向き合った結果なのだろう。

先日、新橋の路上で内田に偶然出くわした。
久しぶりに奴の顔を見たが、相変わらずひん曲がってはいたものの、
私にはいささかも捻くれているようには見えなかった。


荒木建策