大人の証明

2020/08/03

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

いきつけの大衆居酒屋では、お会計時におしぼりを渡してくれる。
おしぼりで拭いたぐらいでは、目に見える汚れは落ちても、目に見えぬ汚れまではぬぐえない。
もちろんウイルスも。
我々に本当に必要なのは、おしぼりではなく除菌スプレーである。
「ありがとうございました」の言葉とともに、
除菌できる何かを用意しておくのが本当の意味でのサービスではないかと、
手にしたおしぼりを持て余す私の横で、
優しい目をしたお爺さんは堂々とぬぐっていた。
顔、首筋、脇の下、慣れた手付きでゴシゴシ擦ったその後に、
ズボンの中におしぼりを突っ込み、股間を堂々とぬぐっていた。
手の汚れなど、汚れの世界では脇役だと言わんばかり、一心不乱に股間をぬぐっていた。
そうか、おしぼりは手をぬぐうだけのものではなかったのだ。
酒や煙草ではなく、おしぼりこそが大人か子供かを最も簡単に見分けるリトマス試験紙。
私も躊躇することなく股間をぬぐえる、立派な大人に早くなりたいだなんて、
思うわけないだろバカ野郎。
お爺さん、回り回って私が手にする可能性もあるおしぼりなんだから、
股間とかホント勘弁してください。