崎陽軒

2020/09/07

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

私は今、崎陽軒のシウマイが無性に食べたいのだが、
奴は今、何が食べたいのだろう。
大学時代からの友人が心臓を患い入院した。
既に手術を終え、今は検査の真っ最中ということで、そろそろ普通の食事を摂れるはずだから、
旨いもんでも持っていってやろうと思う。
となると、一番の候補は崎陽軒のシウマイだろうか。
嫁も彼女もいない奴のこと、きっと温もりに飢えているはずなのだ。
グレープフルーツのように食べてすっきりするもの、メロンのように甘くとろけそうなものよりは、
温もりを感じるホカホカのものがいいだろう。
となると、やはりレンジでチンした崎陽軒のシウマイだろうか。
いや、新宿で財布を落として一文無しになったときに、来てもらってお金を借りたり、
ファミコン版の信長の野望を借りたりと、奴にはいくつもの借りがある。
ただのシウマイではとても返し切れぬから、ここは崎陽軒の特製シウマイだろうか。
崎陽軒のシウマイは律儀にも、底の部分に必ずグリーンピースがひとつ埋もれている。
確か奴も私と同じくグリーンピースが苦手だからこそ、あえてシウマイをくれてやる。
まだ返さんぞ。
何年か経った頃、もしもお前が幸せを掴んだときに借りは全て返してやる。
だから、今はまだ返さん。
早く元気になってくれ。

荒木