家系

2020/09/14

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

「原宿系」「萌え系」「出会い系」、
そして横浜を発祥とする「家系」なるラーメンとは、
ほとんど無縁の生活を送ってきた私は、先日、その旨さに気付くに至り、
今や毎晩でも豚骨醤油ベースの濃厚スープをすすっていたい、
何なら濃厚スープに飛び込みたいと考えているのであるが、
残念ながらその流れを汲むラーメンを提供する店は近所にない。
ないとは知りつつ諦め切れず、家系、家系、家系、うわ言のように繰り返しながらネットで検索していると、
まるで聞き分けのない子どもの要求に、仕方なく応えるお母さんのような口調で、
「じゃ、私、作りましょうか?」とアシスタントは言った。
実家、ラーメン屋だったっけな?などと思いつつ、やれるもんならやってみろと半ば挑発的にお願いすると、
キッチンから聞こえてきたのは「バシュッ」という音だった。
あれは紛れもない、サッポロ一番の袋を開く音である。
家系ラーメンを家で作るラーメンと勘違いしている可能性が非常に高いものの、
それは違うと指摘しようとなかろうと、出てくるのが同じサッポロ一番であるのなら、
ここは黙っておくべきではないかと沈黙を貫いている今。
台所からは、湯がグラグラ湧いている音が聞こえる。

荒木