ヒロシ&…

2020/09/21

荒木建策(放送作家/ アリゴ座主宰)

先日、私はとある制作会社で、待ち時間にスマホの麻雀アプリに興じていた。
トップと800点差の2着で迎えたオーラス。
上家のリーチをかいくぐってこの手をものにすれば、
このピンフラドラ1をものにすれば、
格上のカニクリームコロッケさんを押しのけトップになれるという極めて重大な局面で、
向かいにいたAPさんが小声でつぶやいた。
「あ、ヒロシ&キーゴー…」
リアクションをせずにいると、彼女はなおも続けた。
「荒木さん。あそこにヒロシ&キーゴーが…」
指差す先に視線を向けると、そこにいたのはカブトムシと見紛うほど大きなゴキブリだった。
この国に住むほとんど全ての人と同様、私もゴキブリが締め切りの次に嫌いである。
生かしちゃおけぬ、必ずや息の根を止めてやろうと強力な武器をオロオロしながら探しているとサササッ、
その間に奴は身を隠してしまった。
見つけた時点ではっきり言ってくれれば、手刀でスパーンッ、
弱ったところをかかと落としでカツーンッというのは無理にしても、
おろしたてのワサビとか、腐りかけのコーヒーとかで、敵のタマを取ってやったというのに。
「だって、しょうがないじゃないですか!その単語を口にすらしたくなかったんだもん」
いやそれにしたって、キーゴーはどうなのか。
「世代じゃないです」という言葉は、そっと胸にしまった荒木でした。


荒木